なぜ乳首は「感じる」のか 快感の脳科学
ヒトの性感帯はさまざまですが、「乳首が感じる」という人は多いのではないでしょうか。
しかし、なぜ乳首で快感を得られるのでしょうか。
今回は、脳機能に着目してその理由を解説します。
注)「ちつ」の解剖学的に正しい表記は「腟」ですが、この記事では一般的な表記である「膣」を使用します。
この記事の監修
しょうた、おはよ~!土曜の朝から何してるの?
おお、おはようモヤピン。昨日セックスしたときに、乳首を攻めたら反応がすごい良くて。そんなにきもちいいのかな?って、自分でも触ってたワケ!
研究熱心だね。モヤピンは乳首ないからなあ…。性感帯がたくさんある人間が羨ましいよ。
くそ~!俺は乳首を触られても、あまり気持ちいいとは思わないかもな…。そもそも、性器とはあんなに遠いのに、なんで乳首は感じるんだろう?モヤピン、知ってる?
う~ん。セイ星で習った気がするんだけどどうだったっけ…。
ちょっとモヤピン!忘れないでよ~!わたしが解説してあげる!
「乳首が気持ちよい」と感じる人の割合は?
はじめに、「乳首が性感帯だ」という人はどの程度いるのでしょうか。
2006年に男性148名(17~29歳)、女性153名(18~22歳)へ行われたアンケート調査では、「乳首/乳房の刺激で性的快感が得られる」と回答した割合は、男性で51.7%、女性で81.5%に上りました。
一方、「乳首/乳房の刺激で性的快感が低下する」と回答した割合は、男性で7.5%、女性で7.2%でした。*¹
男女差はありそうですが、「乳首が性感帯だ」という人は多いことが分かります。
男性も、乳首が感じる人結構いるんだなぁ~!
皮膚への刺激はなぜ知覚できるのか 面白い脳の仕組み
乳首が感じる理由の前に、そもそも、なぜヒトは皮膚への刺激を知覚できるのでしょうか?
皮膚も含め、全ての知覚は脳で生じています。
脳は部位によって異なる機能を担っていて、触覚を担当している場所は「体性感覚野」と呼ばれます。
皮膚が刺激を受けると、その刺激が「脊髄」を通じて脳の反対側の体性感覚野に伝わり、刺激として認知されます。(例えば、右手への刺激はいわゆる左脳に伝わります。)
更に、感覚を担当する体の部位に応じて、体性感覚野の中でも領域が分かれています。
上図は、左脳の体性感覚野を後頭部側から見たときに、どの領域が体のどの部位を担当しているかを表した地図です。
例えば、唇が刺激を受けると、地図上の「唇」と記された領域の神経細胞が活動します。
実際の体のサイズと比較して、手や顔の担当領域が広いことが分かります。
これは、手や顔の触覚が他の部位(脚や体幹など)よりも優れており、その分多くの神経細胞の活動が必要になるためです。
乳首のナゾを解くにはここも重要。からだが受ける色々な刺激は全て脳に伝わってるんだ。
中学生の理科で一応習ってるみたいよ。復習できた?
乳首と性器を刺激したときの脳をのぞいてみた!
では、性器や乳首への刺激で、体性感覚野はどのように活動するのでしょうか。
先程の地図から、性器への刺激では脳の中央(右脳と左脳の間)辺り、乳首への刺激では「体幹」と書かれた辺り(頭頂付近)の活動が予想されます。
実際に、性器と乳首の刺激時の脳活動を測定した研究が、2013年にアメリカのラトガース大学で行われました。
被験者は女性11名(23~56歳)で、クリトリス、膣壁、子宮頸部、乳首をそれぞれ自己刺激した際の脳活動が、MRIで測定されました。
まず、クリトリス、膣壁、子宮頸部への刺激時は、体性感覚野の「性器」領域(白矢印の部分)の活動が確認されました。
これは、体性感覚野の地図からの予想と矛盾しません。
一方、乳首への刺激時は、体性感覚野の地図で予想された「体幹」領域に加え、「性器」領域の活動も確認されました。
こちらは、クリトリス、膣壁、子宮頸部への刺激時、各活動の重なり具合(上)と、被験者3名で、そこに更に乳首への刺激時の活動を重ねた図です(下)。
体での位置も近い、クリトリス、膣壁、子宮頸部の活動部位が近いことは予想通りですが、乳首での活動部位も、それらに重なっていることが分かります。
以上の結果から、乳首が性感帯である理由の一つは、「乳首への刺激が、性器への刺激と同じ脳部位を活性化させるからだ」と推測できます。
今回は女性での研究結果を紹介しましたが、男性の乳首刺激でも同様の結果が確認されています。*⁵
ちょっとムズかったけど、要するに乳首とちんこどちらでも脳の同じ部分が反応してるってことか!
そうだそうだ。やっと授業で習ったこと思い出してきたよ!
自分が気持ちよいと思う部位を知り、性生活をさらに楽しもう!
乳首が感じる理由の一つを、脳の体性感覚野の活動から解説しました。
しかし、乳首が感じる人とそうでない人や、感じる度合いによって脳活動に差があるのか、そもそもなぜ乳首への刺激で「性器」領域が活動するのか、その他の性感帯ではどのようになるのかなど、疑問は尽きません。
しかも、性的快感はその時々のシチュエーションで多様に変化し、そこには体性感覚野以外の様々な脳の活動も、複雑に関与しているはずです。
「快感」を理解するために、今日の科学はあまりにも力不足です。
今後の研究で、快感への理解が深まり、人類がより気持ち良くなれる日が来ることを期待しましょう。
うおーー!俺も乳首感じるようになりたい。どうすればいいんだーーー
モヤピン、開発するやり方も教えてくれ!
オケ♪って、モヤピンには乳首ないんだからわかるわけないじゃん~。勉強しておくね。
【参考/出典元】
*1 Levin, Roy, and Cindy Meston. “Nipple/breast stimulation and sexual arousal in young men and women.” The journal of sexual medicine 3.3 (2006): 450-454.
*2 脳神経外科疾患情報ページ, 脳の機能
*3 Wikipedia, 中心後回
*4 Komisaruk, Barry R., et al. “Women’s clitoris, vagina, and cervix mapped on the sensory cortex: fMRI evidence.” The journal of sexual medicine 8.10 (2011): 2822-2830.
*5 Allen, Kachina, et al. “Male urogenital system mapped onto the sensory cortex: functional magnetic resonance imaging evidence.” The journal of sexual medicine 17.4 (2020): 603-613.
この記事を書いた人
牛場 栄之 TENGAヘルスケア社員(編集長)
大学・大学院では神経科学を専攻、おとなセイシルでは性科学や性機能学、生理学の分野を主に担当。2016年に株式会社TENGAへ入社、以来TENGAヘルスケア製品の研究開発を担当。
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ん~~。ん~~??(乳首を触りながらうなるような声を出すしょうた)