精液検査の基準値と結果の見方 量や運動率が低い時にできること
精液検査では、精液と精子が妊娠に適した状態かを確認します。精液量、精子濃度、運動率、正常形態率などの項目を調べますが、数値がいくつ以上なら良いかはご存じでしょうか。
実は「基準値」を超えていれば良いわけではありません。
今回は、精液検査の基準値から結果の見方、所見が悪いとされた時にできる対策についても解説します。
この記事の監修
今井 伸 医師
SRHケアクリニック静岡 院長
生殖医療(男性不妊・がん生殖)、性機能障害、男性更年期障害(LOH症候群)を専門とする。
泌尿器科医
性機能専門医
生殖医学会生殖医療専門医
性科学会認定セックス・セラピスト専門医
ほぉ…数字がいっぱい。モヤピン、数字アレルギーだから避難しとくね。セイシローよろしく!
しょうた、精液検査お疲れ様!では、基準値や結果の見方を解説しよう!
精液検査の基準値や結果の見方
そもそも、精液や精子ってどのくらいあったら良いんだ?
WHO(世界保健機構)が2021年に定めた精液検査の基準値は、精液量は1.4ml以上、精子濃度は1mlあたり1600万匹だ。
検査項目 | 基準値 |
精液量 | 1.4ml以上 |
精子濃度 | 1600万/ml以上 |
運動率 | 42%以上 |
総運動精子数(精液量×精子濃度×運動率) | 1638万以上 |
直進率(前進運動率) | 30%以上 |
正常形態率 | 4%以上(奇形率96%未満) |
基準値はどのように決められているかというと下記のデータ内の赤枠部分に注目して。
1年以内にパートナーが妊娠した男性の精液所見のデータの、下位5%の数値を「自然妊娠に最低限必要な値」という意味で基準値としているよ。
出典:*¹より改変
各被験者の結果を低い方から並べて、例えば精液量なら、下から5%目の人の数値が1.4 ml、10%目の人の数値が1.8 ml、逆に上から5%目(下から95%目)の人の数値が6.2 mlとなります。
注意したい点として、基準値を上回っているから自然妊娠が可能、下回っているから自然妊娠が不可能というわけではありません。
基準値を確認する際の注意点
上記の基準値は、避妊中止後12カ月以内に自然妊娠のあった男性の精液検査データを参考に作られているデータです。
赤枠内上部の「5」という記載は「自然妊娠した男性のデータのうち、下位5%」を表しており、「下位5%以上なら自然妊娠できる可能性がある」と考えられています。
そのため基準値に達していれば自然妊娠が確実にできるというものではなく、下回っていても自然妊娠する場合もあります。
おお…、俺は基準値はギリギリ越えているって感じかな…。
妊活で注目すべきは「総運動精子数」
精液検査には様々な項目がありますが、総合的な精子の質は「総運動精子数」を見るのが良いでしょう。
総運動精子数は「1回の射精精液中の運動精子の総数」を意味しており、「精子濃度」×「運動率」×「精液量」で計算されます。3つの項目の掛け算なので、これらの項目がバランス良く高い必要があります。
総運動精子数は、不妊治療の方法を選択する目安になります。医療機関や本人達の状況によって差はありますが、おおよそ以下のように考えられています。
総運動精子数と不妊治療の目安
2000万個以上:タイミング法
1000万個以上:人工授精
1000万個未満:体外受精または顕微授精
つまり、動いてる精子が多ければ良いということか…。それによって不妊治療をどう進めるかが決まるんだね。
日本人の精液検査結果の平均値
平均 | 中央値 | WHOの基準値 | |
精液量(ml) | 3.1 | 3.0 | 1.4 |
精子濃度(個/ml) | 1億500万 | 8400万 | 1600万 |
総精子数(個/射精) | 3億1700万 | 2億3900万 | 3900万 |
運動率(%) | 67 | 66 | 42 |
正常形態率(%) | 9.8 | 8.5 | 4.0 |
こちらは、日本人の平均値と中央値のデータです。データの対象者は、妊娠8~12週の女性のパートナー(男性, 792名)です。
WHOの基準値と比較すると、数倍以上になっている項目もあります。「精液検査で数値が高かった」と言えるのは、この平均値や中央値を超えてからだと言えるでしょう。
日本人の平均で見ると全然越えていない…、どうしよう。
精液検査で量が少ない・運動率が悪かった時は?
結果みると、俺、基準値はギリギリで越えているけど、日本人の平均よりも下だし、このままだとヤバいよね…?
安心はできないけど、少し時期を置いて、もう一度検査を受けてから考えるのはどうかな。実は精液検査の結果にはバラつきがあって、1回だけの検査では正しい数値はわからないといわれているんだ。
精子の状態は射精の度に変化する
上記は、健康な男性1名が、120週間にわたり毎週精液検査をした精子濃度の結果です。グラフの値は測定毎に大きく上下し、100倍程度の差も見受けられます。
この期間中、男性は投薬を受けたり、発熱が生じることはありませんでした。つまり体調が安定していても、精子の状態は射精の度に大きく変動すると言えます。この変動の要因は、射精時の気持ち良さや精神状態など所説ありますが、はっきりとした理由は分かっていません。
とにかく間違いないのは、一度の精液検査の結果では、その男性の精液の状態を適切に把握することはできない、ということです。自分の状態を適切に把握するために、精液検査は複数回受ける必要があります。
そうなんだ!だとしたら基準値に達していなくても、絶望しなくても良いのかな。
楽観はできないけど、2回以上検査してから考えるべきだね。
精液検査の結果が悪い時にもできることはある
俺はまだ妊活の予定はないけど、基準値ギリギリの今の状態のままだと不安だな…。何かできることあるかな?
精液検査で量が少ない・運動率が悪かった時にも、できることはある。例えば以下のようなことだよ。
精子を増やす11カ条
-
禁煙する
-
禁欲しない
-
バランスの良い食生活を心がける
-
睡眠を7時間以上とる
-
適度な運動を行い、体型維持を心がける
-
ストレスを溜めない
-
下着はトランクス
-
サウナや長風呂は控える
-
膝上のパソコン作業は控える
-
長時間の自転車は控える
-
育毛剤はミノキシジルを使う
もちろん、結果から治療が必要だとわかったときには、早期に治療を開始しよう。
モヤピンはタバコ吸わないし、9時間睡眠だし、無職だからパソコンも使わないし、ノーストレスだよ!見習ってね!
数字が見えなくなったから戻ってきたんだな。
精液検査に基準値はあるけれど、結果にはバラつきがある!数回以上行おう
精液検査の基準値は目安だ。また、精液の状態は射精の度に大きく変動するから、バラつきがあることは頭に入れておこう。
自分の状態を適切に把握するためには、数回以上の精液検査が必要だ。1回の結果で一喜一憂せず、必ず数回(できれば定期的に)検査を受けるようにしよう。
今あまり良い状態じゃなくても、イコール妊娠できないとは限らないと知って少しだけ安心したよ。とはいえ、状態を改善しなくちゃね。生活習慣を整えたりできることからやって、また検査を受けてみるよ。
あやにも良い報告ができると良いね!
【参考/引用元】
*1 WHO laboratory manual for the examination and processing of human semen, Sixth edition, 2021
*2 Iwamoto, Teruaki, et al. “Semen quality of fertile Japanese men: a cross-sectional population-based study of 792 men.” BMJ open 3.1 (2013).
この記事を書いた人
牛場 栄之 TENGAヘルスケア社員(編集長)
大学・大学院では神経科学を専攻、おとなセイシルでは性科学や性機能学、生理学の分野を主に担当。2016年に株式会社TENGAへ入社、以来TENGAヘルスケア製品の研究開発を担当。
この人の記事一覧記事をシェアする
この前あやに言われて受けた精液検査の結果が出たんだけど…、なんかコレ自分が良いのか悪いのかよくわからないな。