下ネタが「ひらめき脳」の下地? 脳神経外科医と語ってみた
コンプライアンスに敏感な令和の時代──「シモの話題」は「これを聞いた人はどう感じるのだろう?」といった配慮を常に払わねばならない、腫れ物的なネタとなりつつあります。
今回は、このデリケートな〝飛び道具〟とも言える「下ネタ」の効能やリスクについて、脳神経外科医の菅原道仁先生に「脳科学」の見地から語っていただきました。
インタビュアーは、かつて菅原先生と書籍『モテと非モテの脳科学〜おじさんの恋はなぜ報われないのか〜』(ワニブックスPLUS新書)を共著で出版した山田ゴメスです。
この記事の協力者
 
    菅原 道仁 脳神経外科医
1970年埼玉県生まれ。杏林大学医学部卒業後、クモ膜下出血や脳梗塞などの緊急脳疾患を専門として国立国際医療研究センターに勤務。 2000年、救急から在宅まで一貫した医療を提供できる医療システムの構築を目指し、脳神経外科専門の八王子市・北原国際病院に勤務し、緊急対応に明け暮れる。 2015年6月に『菅原脳神経外科クリニック』、2019年10月に『菅原クリニック 東京脳ドック』を開院。その診療経験をもとに「人生目標から考える医療」のスタイルを確立し、心や生き方までをサポートする医療を行う。 脳のしくみについてのわかりやすい解説は好評で、テレビ出演および著書多数。
もっと見る下ネタは「ひらめき脳」の下地になる?
あや 菅原先生とゴメスさんは、昔からのお友達なんですか?
菅原 そうだね。なんだかんだ言って、もう10年以上の付き合いになりますか?
ゴメス はい。共著で『モテと非モテの脳科学』って書籍を出版したこともあるんだけど──じつは1年ほど前、ぼくが患っていた「頚骨動脈剥離」って脳の病気を、先生が早期発見してくれて、迅速な治療をしていただき……まさに、ぼくにとっては「命の恩人」でもあるんだよ!
菅原 そんなこともあったね。今は元気そうでなによりです。
ゴメス その節は本当にありがとうございました! で、今回は「下ネタ」について、なんですが???
菅原 今のご時世じゃ、なかなか迂闊に手を出せないテーマですね(笑)
ゴメス 最近は20代の女性と話していても「下ネタを話す男が嫌で嫌でたまりません!」「どんなにイケメンでお洒落でイイ会社に勤めている人でも、飲みの席や合コンとかでエロい話題を振られた途端、一気にサーッと冷めちゃう」みたいなことを言う子が確実に増えてきている気がしますし……。
注:あくまでゴメス個人の体感です
あや そもそも、男子って……なんで、すぐ下ネタを話したくなるんですか? その心理が知りたい!
ゴメス う〜ん……ぼくのリサーチによると、おおよそは
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                    肉体関係を迫るためのジャブとして下ネタが有効だと思っている 
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                    女性とエロい話をすると単純にテンションが上がる 
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                    下ネタを話したときの女性の困った顔が大好物! 
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                    下ネタぐらいしか自信を持って話せない 
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                    経験豊富な男だと思われたい 
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                    軽い下ネタのリアクションで、女性のキャラや許容範囲を把握しておきたい 
…みたいな動機によるもの、なんじゃないかな?
あや どれも最低じゃないですかっ!?
ゴメス そう。どれも理由としては終わってる(苦笑)。ただ、ぼくにかぎっては、最後の「下ネタのリアクションで、相手の許容範囲を把握したい」──より正確な表現をすれば「下ネタのリアクションから、相手のインテリジェンスを計測したい」っていうのはちょっぴりあったりもする。
菅原 なるほど…。
ゴメス だから、ぼくは下ネタを語る際には、必ず「種存本能」やら「ヒンドゥー的宗教観」やら「振り子理論」やら…のアカデミックな要素と単語を随所随所に挿入するようにしている。
口調は極力熱量と抑揚を省いて、伏せ字風な言い回しや「アレ」だとか「アソコ」だとか「愚息」だとか「オットセイ」だとかの指示代名詞や比喩などの婉曲的な表現は一切使わず「チ◯ポ」は「チ◯ポ」、「マ◯コ」は「マ◯コ」(=「◯」にはちゃんと「ン」が入る)とフルネームで!
表情からは笑みを一切消し去り、まるで「高等な専門数式を馴染み深い性器にまつわる例え話を交えながら、やさしく解説している」かのごとく、淡々と語る。
そして、そういうクオリティの高い「下ネタ」にポジティブなかたちで応えてくれる女性は、往々にして一般常識や既成概念に縛られない知的好奇心も強かったりする。
注:あくまでゴメス個人の体感です
また、そんな女性とのセックスは総じてアグレッシブかつクリエイティブで、満足度の面でも桁違いに高いと(個人的には)感じるんだよね。
あや ゴメスさん、今日はインタビュアーなんだから、もうちょい抑えましょうよ(笑)
ゴメス ごめんごめん! つい熱くなっちゃって……。
菅原 (笑)でもね、ゴメスさんが今一気に語ったことはある意味、納得できる部分もなくはない。
ゴメス ですよね〜〜〜!
菅原 私は「下ネタを人前で話すことは脳に2つの良い効果をもたらす」と考えています。
あや 「二つ」も!? 本当ですか?
菅原 まず、一つめの効果は「ひらめく脳」の下地づくりにもってこいだということ。
下ネタとは「普通のなにげないひと言を違う視点で捉えて、生殖器や性行為などを想起させる言葉や動作による表現に変化させること」であり、ひらめきのある敏感な脳じゃないと、そう簡単に思いつくものではありません。
すなわち「下ネタを考える」ということは、「新しいアイデアを捻り出す作業」と言い換えることができるのです。
ゴメス たしかにぼくも下ネタを語っているときが、頭も一番グルグルと高速回転しているような気がする…(笑)
菅原 「新しいアイデア」は〝無〟から突然ポンと出てくるわけではなく、すべてが「過去のアイデアの組み合わせ」や「視点の違い」から生まれまるもの──たとえば、どんなに腕の良い寿司職人がいても、カウンターのネタケースに魚がなければ寿司屋は開店できないように、「記憶」がなければ、新しいアイデアは発想できません。
「新しいアイデアの捻出」とは、側頭葉にある記憶(魚)をもとに、前頭葉(寿司職人)があらゆる工夫(組み合わせ)を凝らし、お客を満足させる仕事を行うことと同じなのです。
ゴメス すごくわかりやすい例えですね。
菅原 なかでも「シモ絡みの記憶」は、寿司職人にとって「決して高級ではないけど、脂が乗っていて丁寧に調理すれば美味しく食べられる」いわば鰯(イワシ)みたいな存在で、一流の寿司職人はこういった“下魚”からも常に刺激を受け、お店を繁盛させているのではないでしょうか。
下ネタを語る際に重要な「メタ認知」
菅原 二つめの効果としては、「メタ認知」を鍛えることができます。
あや 「メタ認知」って何ですか?
菅原 自身の思考・感情や周囲の状況を客観的に評価し、それをコントロールすること。簡単に言ってしまうと「自分の言動を空の上から神様の目線で見るようなこと」です。
ゴメス 「下ネタ」がなぜ、その「メタ認知」を鍛えることになるのか……そこらへんの関連性がイマイチよくわからないのですが?
菅原 申すまでもなく、下ネタは相手と場所を選びます。現在のようにコンプライアンスに厳しい時代はなおさらでしょう。
そもそも「下ネタを発する」いう行為は、相当に高度な判断能力を要するもの。だからこそ、「こんなときにこんな話をしたら、まわりが凍りつくんじゃないか」というような、自身が置かれている立場を客観的かつ瞬時に理解する「メタ認知」が重要になってくるのです。
ゴメス そりゃそうだ。ぼくだって、誰彼かまわず見境なく下ネタをしゃべくりまくっているわけじゃないですからね! 特にここ数年は相手から振ってこないかぎり、女性の前で下ネタを語ることは滅多にない……かも?
菅原 そういうリスク回避を背景にした判断も「メタ認知」の一つですよね。私たちの「メタ認知」は、脳の最前部にある前頭葉の、さらに前半分にある「前頭前野」が担っています。「前頭前野」は、人間がもっとも進化した部位で、他の動物と比べても人類が抜きん出て大きく発達しています。
ですから、「ひっきりなしに下ネタを垂れ流すこと」は、極論すれば「人間としての品性を欠いた愚行」とも言えるのです。
ゴメス 下ネタを発言するときに、一番気をつけなければならないことを教えてください。
菅原 「この話(=下ネタ)を聞いた人はどう感じるだろうか?」といった発想を常に持つことです。思いつくままダラダラと口に出すのは、まったくもってよくありません。好感度の上がる下ネタというのは「メタ認知」を充分に意識して、時にはユーモアもまじえ理性的に振る舞いながら語るものなのです。
あや それって、滅茶苦茶むずかしくないですか?
菅原 これを聞いて「滅茶苦茶むずかしい=ハードルが高い」と感じた人は、残念ながら下ネタを語る資格がありません。
一般論として下ネタは、やはり「下品」と見なされがちなので、好き嫌いが大きく分かれるのはしょうがない。私個人としては、両刃の剣ともなりかねない危険度の高い下ネタより、同様に「ひらめき」と「メタ認知」が必要となる「おやじギャグ」をおすすめします。
おやじギャグなら、万一スベったところで相手を凍てつかせるだけで済みますが、下ネタだと女性に一生嫌われてしまう可能性もありますから。
女性向け!嫌な下ネタを避けるためのアドバイス
あや ありがとうございます! でも、こういうことをどんなに頑張って公に発信しても「ひっきりなしに下ネタを垂れ流す男の人」って、なかなか絶滅はしませんよね? そういう「どうしようもないヒト」と出会ってしまった場合は、どうすれば?
ゴメス 人差し指を立てながら、にこやかに「それ、セクハラですよ!」と一言──これがMAXに効果があるって、某グラビア系アイドルがどこぞのメディアで言ってたなぁ…。
あや 中指の間違いじゃない(笑)? でも、「にこやか」にすると昭和世代のおじさんだとむしろ喜んじゃいそうだけど?
ゴメス そうなったら、ちょっと真顔で「それ、完全アウトですよ!」とピシャリ加えればOK。それだけでシュンとしちゃうから(笑)。ね? 先生!
菅原 (特に)中高年世代には「この出会いを逃したら、次がない!」「今回がラストチャンス!」「次の試合はない」…と、自分を追い込む「メンタルブロック」が強く働いてしまいがちなので、こうした「やんわりとした忠告(=ダメ出し)」は、それなりに効果的かもしれません。
ただいっぽうで、論調や口調が下手に優しすぎた場合、「この人は俺のことを理解してくれるかも」「俺のことを特別視してくれている」…と誤解されてしまい、より面倒なことになってしまう危険性も無くはありません。
あや じゃあ結局のところ、あまりにしつこい下ネタをかわすには、どうすればいいんですか?
菅原 「話題、変えません?」とハッキリと強めに言う。それでも止まらなければ「無視して立ち去る」のが良いでしょう。
あや それだと、相手が怒っちゃったりしません? あと、場の空気悪くしてしまうとか、ノリが悪いと思われてしまう心配をする人も、けっこう多いと思いますけど。
菅原 万一「怒らせてしまった」としても、令和の時代の〝正義〟はこちら側にあるわけですから、別にかまわないじゃないですか(笑)
だけど、私の予測では「怒らせてしまう」ケースは稀だと思います。
なぜなら、人間というのは「失敗を過大評価してしまう習性」があるからです。表現を変えれば「損を多く見積もるクセがある」──これは「プロスペクト理論」*と呼ばれており、その「無言の抗議」よって「得をするよりも損を回避したい」という意思決定が相手に働くのです。
*不確実性下における決断を迫られた際、得られる利益、もしくは被る損害および、それら確率を比較したうえで、人がどのような選択をするかを研究したもの
「場の空気を悪くしてしまう」とか「ノリが悪いと思われる」心配についても、下ネタを言った側が「失敗したな」と思えば同様の着地になるはずなので、それほど心配しなくても良いんじゃないかと思います。
ただ、それでも下ネタがしつこかったり、言われた側に不利益が生じる場合は、然るべき第三者に相談・通報することを私は勧めます。繰り返しますが、現代の〝正義〟はこちら側にありますので。
この記事を書いた人
 
    山田 ゴメス ライター&イラストレーター
年齢非公開のアラカン。大阪府生まれ。関西大学経済学部卒業後、大手画材屋勤務を経てフリーランスに。エロからファッション・学年誌・音楽&美術評論・人工衛星・AI、さらには漫画原作…まで、記名・無記名、紙・ネットを問わず、偏った幅広さを持ち味とするライター兼コラムニスト&イラストレーター。若者男性向け総合情報誌『Hot-Dog PRESS』(講談社)の「SEX・恋愛マニュアル記事」を休刊(2004年)までの約10年間担当し、その他にも多くのエロ・グラビア雑誌や書籍の創刊、制作に携わる。
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