セクハラとは?無意識に加害者・被害者にならないために
誰もが安心して過ごせる職場環境をつくるために欠かせないのが「ハラスメント防止」です。
中でもセクシュアルハラスメント(以下、セクハラ)は、「どこからがセクハラなのか分からない」「悪気はなかったのに指摘された」など、加害者と被害者の認識のズレがトラブルを招くことも少なくありません。
今回は、セクハラの基本的な定義や種類から、加害者と被害者の受け取り方のギャップ、セクハラをしないための心構え、そして万が一被害にあったときの対処法までを紹介します。
この記事の監修

佐藤 祐也 株式会社エンカレッジ・イノベーション 代表取締役 CTO
大学卒業後、食品メーカーの総合職を経て株式会社リクルート(旧リクルートキャリア)へ入社。求人広告の営業として携わった後、3年目から新卒社員の教育部門において育成担当として半年間の育成プログラムを実施。
その後、同企業において営業マネジャー、戦略・企画ディレクター、代理店渉外マネジャーを歴任し、11年間、リクルートにて組織開発に関わるメゾットなどを様々なポジションや分野から学び2016年に独立。
育成プログラムの開発や人事制度の構築と運用などHR領域に関する分野を中心に経験し、現在はプロダクト開発、システム開発にも携わっている。
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モヤピン
性のモヤモヤから生まれた妖精で、セイ星から地球へ派遣されたが、知識面ではあまり頼りにならない。性知識に富んだ仲間を頼って、人間と一緒に学んでいる。
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しょうた
なんだか抜けているサラリーマン(28歳)。同棲中の異性のパートナー(あや)がいる。ネットの情報に惑わされがちで、ものごとをあまり深く考えていない。
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だいすけ
しょうたの会社の営業部の先輩(32歳)。仕事は頼りになるが、プライベートは危なっかしい遊び人。性のリテラシーも低い。


セクハラ対策の研修らしいっすね。そんなの言われなくてもしないし、うちの会社じゃありえないのに、大袈裟ですよね〜。

あ、うち(営業部)の新入社員のセイこちゃんだ。おーい、セイこちゃーん!今日もかわいいね〜。え、今日なんか服装いつもと違うじゃん!?もしかして…

あ、無視して行っちゃった。あれ、モヤピンもいたのかよ。

セイこちゃん、モヤピンにびっくりしちゃったんだな。

モヤピンもセクハラ研修受けに来たんだ〜。モヤピンかわいいのに逃げるわけないじゃん。だいすけが何か嫌なこと言ったんじゃないの?

俺は褒めただけだよ!いつもとの違いに気づけるイイオトコ!さ、パパッと研修行くぞ!
セクハラとは?基本的な定義と種類
日本におけるセクハラの法的な位置づけは、主に男女雇用機会均等法に基づいています。
この法律では、職場におけるセクハラを次の2つに分けています。
・対価型セクシュアル・ハラスメント 昇進・評価・雇用継続などに対し、性的な言動への同意を求める形で圧力をかけたり、拒否したことを理由に不利益を与えたりするもの。 ・環境型セクシュアル・ハラスメント 職場での発言や行動によって、相手に不快感や屈辱感を与え、就業環境を悪化させるもの。 たとえ業務に直接影響がなくても、受け手が「働きづらい」と感じる場合、これに該当する可能性がある。 ※環境型セクハラでは、直接的な言動の対象ではない第三者(=周囲の人)が、職場の雰囲気を不快・不安・不公平に感じれば、それも「ハラスメントの影響」として認定される場合があります。 |
つまり、「性的な言動をされたことで、働くうえでの支障が出る」ことがセクハラの要件の一つです。
これは性別に関わらず成立します。
セクハラは「露骨な性的な発言」や「身体的な接触」だけに限りません。
さりげない形で行われるケースも多く、受け手の感じ方によっては深刻な被害となります。
以下に、よくある具体例を3つ紹介します。
①発言によるセクハラ
- 容姿や服装に対する不適切な発言(「その服、色っぽいね」「今日は色気があるね」など)
- 性的な冗談や下ネタの共有
- 結婚や出産、恋愛について過度に踏み込んだ質問(「早く結婚しないの?」「子どもはまだ?」など)
②態度・行動によるセクハラ
- 無断で体に触れる(肩を揉む、腰に手を回す、髪に触れるなど)
- 必要以上に近づく、長時間見つめる
- 特定の人にだけ過剰に親しげな態度をとる(お土産、あだ名などの特別待遇)
③デジタル上でのセクハラ
- 業務中/業務外でのしつこいメッセージや電話
- SNS上でのプライベートな画像へのコメントや「いいね」を繰り返す
- 意図せずに送られてくる不適切な画像やリンク
こうした行為の中には、加害者が「軽い冗談のつもり」「仲良しだから問題ない」と思っているケースも少なくありません。
しかし、セクハラの本質は、「相手がどう感じたか」「その言動で被害を受けたと感じたかどうか」にあります。
セクハラは関係性の暴力
セクハラは単なる個人間のトラブルではなく、力関係や上下関係が背景にある「関係性の暴力」とも言えます。
上司から部下、指導者から生徒、先輩から後輩といった「逆らいにくい関係性」の中では、被害者が拒否の意思を示すことさえ困難な場合があります。
さらに、「言っても無駄」「逆に不利になるかも」という不安から、被害が表面化しにくいという問題もあります。
こうした背景も踏まえ、セクハラの定義は「行為そのものの内容」だけでなく、「どんな状況で、誰から誰に対して行われたか」も含めて慎重に考える必要があります。


(あれ?ってことはもしかして、さっきのだいすけ先輩の新人への絡み、アウトじゃね?)

だいすけのことじゃん。

えぇ!俺!?いやいや、俺はイケメンだし、嫌がる子なんていないに決まってるだろ!それに嫌がらせするつもりじゃないし!
加害者と被害者の受け取り方のギャップ
セクハラは、「そんなつもりじゃなかった」という加害者の認識と、「傷ついた・不快だった」という被害者の受け取り方のギャップから起こることが多くあります。
たとえ悪気がなかったとしても、相手が不快に感じた時点でセクハラは成立します(他のハラスメントも同様)。
重要なのは「自分の意図」ではなく「相手の感じ方」です。
同じ言葉でも、何も思わない人と、不快に感じる人がいます。
以下のような言動は、冗談や親しみのつもりでもセクハラと受け取られる可能性があるため、注意が必要です。
「○○さんっていつも若々しいよね」「痩せて綺麗になったね」 → 年齢や外見に触れる発言は、相手によってはデリケートな話題。 「彼氏(彼女)いるの?」「今日デート?」 → プライバシーへの無遠慮な介入と感じる人も。 「飲み会では○○さんの隣がいいな」 → 繰り返されると、冗談では済まされない圧力になる。 |
また、視線や態度にも注意が必要です。
じっと見つめる、無言で距離を詰めるなど、言葉がなくても不快感を与えることがあります。
「仲が良いから許される」「前は笑っていたから大丈夫」は、相手の内心を無視した思い込みです。
相手との関係性や状況を常に意識し、受け取り手の立場を尊重する姿勢が求められます。
もし相手が不快感を示したときは、言い訳をするのではなく、素直に謝り、行動を見直すことが信頼回復につながります。

…前は笑ってくれてたんだけどな。

はじめは笑って誤魔化すしか対処できなかったのかも…。

さっきの新人さん、あそこからだいすけのこと、睨んでるよ。やっぱり嫌だったんだ。

やばい!俺セクハラしてんじゃん!あとで謝らなきゃ!許してくれるかな…

もしかしたら嫌だなと思っても、あれがセクハラだって知らなかったかもしれないな。知るって大切っすね。
セクハラをしないために心がけたいこと
セクハラを防ぐには、「そんなつもりじゃなかった」で済まされない現代の感覚を理解し、日頃の言動に注意を払うことが不可欠です。
「このくらい大丈夫だろう」と思う前に、自分の言動が相手にどう映るかを意識しましょう。
迷ったら「言わない」「やらない」判断が、自分と周囲を守ることにつながります。
職場には、年齢や価値観の異なる人がいます。親しみのつもりが、相手にとっては「不快」や「踏み込みすぎ」と感じられることも。
立場の違いによる力関係がある場合は特に、言動が圧力として伝わることを忘れてはいけません。

セクハラ行為が発覚した場合、就業規則に基づく懲戒処分(減給・出勤停止・解雇など)を受けることもあります。
さらに内容によっては、損害賠償請求や刑事責任を問われるケースもあります。
「知らなかった」では済まされないことを意識することが大切です。
実際、7777企業のうち、約4割の企業が過去3年間に従業員からセクハラに関する相談を受けているという調査結果*¹もあります。

これは、セクハラが特別な場所で起きるものではなく、誰もが加害者にも被害者にもなり得るという現実を示しています。
また、ハラスメント防止は、企業に課された法的義務であり、単なる努力目標ではありません。
職場環境の安全を確保することは、経営の責任の一環です。
ハラスメントを放置すれば法的リスクや企業イメージの失墜にもつながります。
セクハラを受けたらどうすればいいか
セクハラの被害を完全に防ぐのは難しくても、「違和感に気づき、早めに対処すること」は可能です。
まず大切なのは、自分の感覚を信じること。
モヤモヤしたり、不快に思ったりしたら、それは見過ごしてはいけないサインです。
あなたの覚えた違和感は、無視すべきものではありません。
状況が許せば、その場で意思を伝えることが効果的です。
- 「そういう言い方、ちょっと困ります」
- 「今の内容、不快に感じました」
- 「少しでも触られるのは苦手なんです」
上記のような冷静かつシンプルな伝え方で十分です。
難しい場合は、言葉で伝えずにその場を離れたり、あとで信頼できる人に相談するでも構いません。
もちろん対処できなくても、被害者は100%悪くありません。
「自分が悪いのでは」と抱え込まず、信頼できる人(例:加害者や自身の上司)や会社の相談窓口に相談しましょう。

また、言動や状況のメモ(例:日付、発言内容やタイミング、メールのスクリーンショット)を残しておくと、後の対応に役立ちます。
会社内で相談しづらい場合や、相談窓口が機能していないと感じる場合には、外部の相談機関を頼ることも選択肢の一つです。
たとえば、都道府県の労働局や「みんなの人権110番(全国共通人権相談ダイヤル)」などでは、セクハラに関する相談を受け付けています。
誰もが安心して過ごせる環境づくり
セクハラは、加害者と被害者の感じ方のズレから生まれることが多く、誰もが加害者にも被害者にもなり得る問題です。
だからこそ、一人ひとりが当事者意識を持ち、相手の立場に立って行動することが大切です。
会社での制度やルールだけではなく、日々の言動への配慮、見て見ぬふりをしない姿勢が、安心できる職場をつくります。
小さな思いやりと行動が、より良い環境づくりにつながります。
今日からできることを、少しずつ始めていきましょう。

あぁ、これから何を話せば良いんだ…。俺の今までのコミュニケーション、ほとんどセクハラかもしれない。

(ドン引き)…好きなおにぎりの中身とか聞くのはどうっすか?会話が弾みそう。

最近は鮭ハラがマイブーム〜!

ハラスメントみたいに言うなよ。鮭はらすな。俺は安定のツナマヨ!

確かに、聞かれて嫌な気持ちになる人いないもんな。好きなおでんの具とかも良いかも。とりあえず、許してもらえるかわからないけど、セイこちゃんに謝罪してくるよ。

大丈夫かな。きっと「ちゃん」呼びもやめた方がいいっすね。
この記事を書いた人

福田 眞央 TENGAヘルスケア社員
保健体育科教員として勤めた後に大学院に入り、ジェンダー学・性教育を専攻。2021年からTENGAヘルスケアに携わり、10代向け性教育WEBメディア「セイシル」を担当。
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ダリィ〜。忙しいのに、今から研修だってよ。