エロ記事書いて30年　レジェンドライターの半生【平成編】

　思春期の頃、 “ユーザー” として「昭和のエロ」にまみれながら “性への目覚め” を果たし、その後『Hot-Dog PRESS』で「SEX・恋愛マニュアル記事」を量産しながら「平成のエロ」を突っ走る

　──そして、還暦を迎えた今なお「令和のエロ」を俯瞰から見守りつつ、さまざまなメディアで “性にまつわる情報” を精力的に発信し続ける山田ゴメスさん。

　そんなレジェンドライターに、紙媒体を中心とした「エロの昭和・平成・令和」を振り返っていただきました。

　前回の「昭和編」に引き続き、今回は山田ゴメスさんが “発信側” としても活躍をみせた「平成編」です。

この記事を書いた人

山田 ゴメス ライター＆イラストレーター

年齢非公開のアラカン。大阪府生まれ。関西大学経済学部卒業後、大手画材屋勤務を経てフリーランスに。エロからファッション・学年誌・音楽＆美術評論・人工衛星・AI、さらには漫画原作…まで、記名・無記名、紙・ネットを問わず、偏った幅広さを持ち味とするライター兼コラムニスト＆イラストレーター。若者男性向け総合情報誌『Hot-Dog PRESS』（講談社）の「SEX・恋愛マニュアル記事」を休刊（2004年）までの約10年間担当し、その他にも多くのエロ・グラビア雑誌や書籍の創刊、制作に携わる。

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ライターデビューは『さくらんぼ通信』のAVレビュー！

しょうた　（※「昭和編」から続く）「ゴメスさんの人生を大きく変えた『さくらんぼ通信』」って…!? 一体何があったんですか？

ゴメス　ぼくはイラストレーターになりたくて…大学を卒業（※経済学部だったが）してすぐ一念発起して故郷の大阪を離れ、東京で暮らすことを決意したんだ。ちなみに、今でも（一応？）本業は「イラストレーター」のつもりだよ。（収入の）比率的にはライター業の1割にも満たないけど…。

あや　へ〜〜〜っ、ゴメスさんは絵も描けるんですね!? 知らなかった…。

ゴメス　だろうね。よほどのハードゴメスフェチ（HGF）じゃないかぎりは、どーだっていい情報だから（笑）。

で、（※昭和末期から平成初期にかけて）まだ駆け出しのイラストレーターだったぼくは、『S&Mスナイパー』*¹というSM専門雑誌で挿し絵イラストのお仕事をいただいていたんだ。

ゴメス　版元は「ミリオン出版」（当時）という中堅の出版社だったんだけど、『S&Mスナイパー』編集部のとなりに『さくらんぼ通信』編集部があって…。

そこの（当時）編集長だったO氏から、ちょうどぼくがイラストを納品しに行ったときに「人手が足りないから、ウチでAVのレビューを書いてみない？」って誘われたんだよ。

しょうた　なんか、楽しそうな仕事ですね？

ゴメス　『さくらんぼ通信』は、100本以上ものアダルトビデオを途方もない数の細かい作中画撮を添えて紹介する構成でさ…。

その一本一本には「ボッキ度A〜D」みたいなミシュランと300文字くらいのレビュー（＝作品批評）が掲載されていた──それを「市場にまだ流通する前の最新作」を観ながら書く仕事だね。

しょうた　マジっすか？　めっちゃウハウハな仕事じゃないですか!?

ゴメス　ぼくもはじめは「タダ（無料）で最新作のAVが観放題で、しかもお金までもらえるなんて！」ってウハウハだったなぁ（笑）。けれど、受注してまもなく…自分のそんな浅ましい考えが甘かったことを痛感するんだ。

あや　なんでなんで!?

ゴメス　納期があまりに厳しすぎたんだよ。二重にした紙袋に入った30本以上ものVHSに録画されたAVを編集部から手渡されて──原稿の締め切りは中一日！　ヌケるのは最初の一本目だけで、（ヌイた）あとは苦行以外の何物でもなかった…。

しょうた　平均すると「一日15本」の計算ですね？　さすがにそれは地獄かも…（笑）。

ゴメス　アダルトビデオなんて、結局のところ内容はSEXメインでどれも似たようなもんだし、かといってレビューを書くからには、ちゃんと最後まで観なきゃいけないし…。

だから「絡み*²の部分は早送りしてストーリー部分だけを標準（速度）で観る」といった、通常のユーザーとは真逆の鑑賞法をしていた。

最後は、「左手でビデオのリモコンを操作しながら、右手で原稿を書く」（※あの頃はまだワープロもパソコンもなく、原稿は鉛筆の手書きだった）という神技まで習得しちゃって…（笑）

しょうた　すごいっ！　左手にTENGAの試作品、右手にペンを持ってレビューしているというTENGAの役員の人（以下動画参照）と一緒だ！まるで「デキるびじねすぱーそん」じゃないですか。観てるのはAVだけど…（笑）。

あや　しょせん、今も昔もラクしてお金が稼げる美味しい話なんか、そう簡単には転がっていないってことなのね…。

ゴメス　そういうこと！　だけど、ぼくはこの3年以上もの “修行期間” を経て、ライターとしてのスキルを磨くことができたんだ。まずは原稿を書くスピードと持久力。それに、少ない文字数の範囲内で（たとえば）三つの書きたいことのうち二つを捨てる技術。

さらには、似たような内容のモノに色をつけて差別化する技術──これらは本当に得難いスキルだと今でも『さくらんぼ通信』さんには感謝してる。

ゴメス　そして、「山田ゴメスというライターが『さくらんぼ通信』で書くレビューは面白い」という評判が、業界内でいつの間にかじわじわと広まったのか…ある日（※おそらく1994年頃＝平成8年頃？）『Hot-Dog PRESS（ホットドッグプレス）』*³の編集部にスカウトされたんだ。

予算度外視でエロをクリエイティブできた『Hot-Dog PRESS』時代

しょうた　『Hot-Dog PRESS』って、どんな雑誌だったんですか？

ゴメス　あえてジャンルの分類名を挙げるならば…「若年男性向け総合情報誌」ってとこかな。

主流読者層は「（男子）高校生・大学生・フレッシュ社会人」で、当時の若い男の子達が興味津々だったファッション・クルマ・恋愛・SEX…などの情報すべてを凝縮した、『POPEYE』（マガジンハウス）と双璧を成す──まさに「若者（男子）のバイブル」だった。

あや　その時期の『Hot-Dog PRESS』編集部はどんな雰囲気だったの？

ゴメス　ぼくが編集部入りしたときは（一般論で言う）「バブル景気」（1986年〜1991年）はすでに終わっていたんだけど、出版業界はまだまだバブっていた。

ましてや版元の講談社は最大手だったから、見開きの2ページだけにトップクラスのAV女優（＝現セクシー女優）が手ブラ＆パンティオンリー（＝乳首＆股間露出ナシ、もちろん絡みもなし）のワンカットのみで何人も勢揃いする…みたいな贅沢なページづくりを平気でしていた。一人5万円以上ものギャラを支払って…。

ゴメス　東京駅から新幹線だと40分程度しかかからない熱海の「秘宝館」を取材するだけで温泉に一泊させてもらったりもしたよ。1/4ページほどの小さな囲み記事でしかなかったのに…（笑）。

しょうた　し、信じられない…！！！

ゴメス　でしょ？　とにかく予算を気にすることなく誌面づくりに集中することができたから、発想の幅もうんと広がってくる。

ぼくは、主に「恋愛＆SEX」記事を担当していたから、「いかにして “絡み無し” でエッチなビジュアルを表現するか」（※言うても “一般誌” だったので、男女の腰の接着と性器や女性の乳首…及びヘアの露出は禁止されていた）ばっか考えてた。

「大人の性教育」的な企画でプロの服飾デザイナーに女性器に見立てたパッチワークの作成を発注したり、二体の木製デッサン人形を絡ませて「四十八手の体位」を再現し…そのうえ、それらに出鱈目な体位名をネーミングしてみたり…。

あや　おもしろそ〜っ！！

ゴメス　タイトルは、たしか「事前に絶対知っておきたい女性器のメカニズム」だとか「HDP流 近未来四十八体位！」…みたいな感じだった（笑）。

しょうた　相当に自由な時代だったんですね？

ゴメス　うん。だけど、こうした編集部による日々の努力と知謀が実ったのか、1990年代後半あたりの『Hot-Dog PRESS』は「なんでもアリ」の暴走機関車並みに過激さを増していって──年に2回の大々的な「SEX特集」は、売り上げ50万部を超えることもあるモンスター雑誌へと大化けしたんだ。

エロ系グラビア誌もスタイリッシュ化が加速？

ゴメス　『Hot-Dog PRESS』が「若者男子が堂々と買えるエロ本」としても機能していたいっぽうで──1990年代あたりから、中堅出版社を中心に「露出度よりもモデルのクオリティを重視したエログラビア誌をつくろう」といったムーブメントが起き始めてきて……。

しょうた　どうして、そういったムーブメントが起き始めてきたんですか？

ゴメス　やっぱし、「ヘア（ヌード）解禁」が（直接的な原因としては）一番大きかったんじゃないかな？

1991年1月に篠山紀信さんが撮影した写真集『樋口可南子〜water fruit〜不測の事態』（朝日出版社）には数枚の掲載写真に陰毛が明らかに写っていたんだけど、警察当局は摘発を行わず、口頭での警告にとどめた──この事件が（事実上の）「ヘア解禁」の幕開けになったんだ。

ゴメス　加えて、同年11月には宮沢りえさんのヌード写真集『Santa Fe（サンタフェ）』*⁴が百万部超えの大ベストセラーになって、「芸術性があればヘアヌードもOK」って風潮がなし崩し的に当たり前となっていった…。

そんな時代的トレンドのなか──エロ系のグラビア雑誌も（対抗策として）「モデルとカメラマンのレベルアップによるスタイリッシュ化」へとシフトせざるを得なくなったんだ。幸い、アダルトビデオのカジュアル化の影響で “脱げる子” も飛躍的に可愛くなってきてたし…。

あや　この頃、ゴメスさんは『Hot-Dog PRESS』以外だと、どんな仕事をしてたの？

ゴメス　特に、『スコラ』*⁵だとか『デラぺっぴん』*⁶だとか『URECCO』*⁷だとか…の「エロ系グラビア情報誌」が、90年代あたりから「スタイリッシュ化」の傾向を強めていって…。そういう雑誌でよく「一般誌ではヘビーな、でもエロ本ではライトな〜」といったバランスのエロ記事をつくってた。

しょうた　へ〜〜〜っ!? 具体的にはどーいう企画をやってたんですか？

ゴメス　アラサーでまだ童貞を拗らせていた（当時の）男弟子をフーゾクや怪しいスポットに送り込む「××（※←弟子のペンネーム）の童貞喪失ルポ」だとか、いろんな格闘技を僕みずから体当たりで一日体験する「ゴメスのSEXにも役勃（立）つ格闘技術」だとか…（笑）。

あと、『egg』*⁸の創刊に携わったりもしたよ。

あや　え!? ちょっと待って！　『egg』って…あのギャル雑誌の？

ゴメス　これはあまり知られていない事実なんだけど──『egg』は創刊当初は「露出度を捨てて徹底的に女子のレベルを高めるストリートキャッチ型のグラビア誌」をコンセプトにした男性向け雑誌だったんだ。まさに前述したムーブメントの究極的なかたちで…。

ゴメス　ところが、「エロいファッションの素人女子」を集めた結果、誌面が「（コ）ギャル」だらけになってしまい、それが口コミで広がって次第と「ギャル雑誌」へと変貌していったわけさ。ぼくはそのタイミングでお役御免になっちゃったけどね（笑）。

しょうた　いずれにしろ、エッチ系の雑誌に載ってる女の子がどんどん可愛くなっていったわけですよね？　まさに良いことずくめじゃないですか！

ゴメス　たしかに、エッチ系の紙媒体業界にとって追い風的な側面ではあった。だがしかし！　2000年代──21世紀になってエロ本は…悲しいかな、劇的なスピードで衰退の一途を辿っていくことになるんだ。

平成末期から令和＆総括編に続く

エロ記事書いて30年　レジェンドライターの半生【平成末〜令和編】