包茎手術で医療事故 後遺症と闘い続けた18年間と裁判の全貌
男性からよく聞く「包茎」のお悩み。現在、インターネットやSNSには美容クリニックの広告が溢れ、手軽にコンプレックスを解消できるかのように謳われています。しかし、その安易な決断が、一生消えない傷跡と痛みを残すことになったら…。
今回は、16歳で受けた包茎手術で深刻な医療過誤(医療ミス)に遭い、長年後遺症に苦しみながらも、クリニックを相手取り裁判を起こした村上さんにお話を伺いました。壮絶な体験と医療裁判のリアルな実態をお届けします。
この記事の協力者
村上 慎太郎 心身QOLストラテジスト
16歳で包茎手術を受け、深刻な医療過誤に遭い、疼痛や快感の喪失などの後遺症を負う。現在まで13回以上もの再建手術を経験。20代半ばで原因となったクリニックを相手取り医療裁判を起こし、約5年の闘争の末に和解金を勝ち取る。自らの経験を活かし、美容医療の被害者救済や啓発を目指している。
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牛場 健太 TENGAヘルスケア社員(編集長)
大学・大学院では神経科学を専攻、おとなセイシルでは性科学や性機能学、生理学の分野を主に担当。2016年に株式会社TENGAへ入社、以来TENGAヘルスケア製品の研究開発を担当。
この人の記事一覧16歳で包茎手術 コンプレックスにつけ込む美容クリニックの実態

牛場 本日はよろしくお願いします。村上さんは包茎手術の医療事故の被害に遭われたとのことですが、それはおいくつの時でしたか?
村上 16歳、高校1年生の11月ですね。現在34歳なので、もう18年前になります。
牛場 手術を受けるに至った経緯や、当時の状況を教えていただけますか。
村上 当時の僕は仮性包茎でした。手で剥くことはできるのですが、剥いて亀頭を触ると痛かったんです。当時は彼女がいて、「そろそろセックスをするかもしれない」という思いもありました。
牛場 初めての性行為に向けて、包茎手術をしようと考えたのですね。
村上 そうですね。当時は雑誌などの影響で、「包茎は恥ずかしい」「剥いておくのが礼儀だ」という強い思い込みがありました。彼女に相談することもなく、「手術しないといけない」と思い詰めてしまったんです。

村上 それを父親に相談したところ、福井市内の美容クリニックを見つけてきて「じゃあここでするか」と。今思えば近くの総合病院を受診するべきでしたが、当時はその美容クリニックへ行くことになりました。
牛場 クリニックへ行ってから、実際の手術まではどのような流れでしたか?
村上 父親と一緒に行きましたが、最初に出てきたのは手術をする医師ではなく、カウンセラーらしきスタッフでした。その人が僕の陰茎を見て「これならこういう手術だね」と勝手に決めてきたんです。カウンセリングの場に医師は一切出てきませんでした。今思えば、その時点ですでにおかしいですよね。

村上 そこで「亀頭直下法」と「海綿体に3つ切れ目を入れる手術」を行うと説明されました。傷が治る時に組織が肥大して陰茎が太くなる、と。意味がわかりませんでしたが、有無を言わさない雰囲気でした。
さらに、包茎とは関係のない亀頭へのヒアルロン酸注入まで勧められ、当時は言われるがまま「それが当たり前なんだ」と受け入れてしまいました。費用は計30万円。行ったその日に手術台に乗せられました。
手術直後の大出血と激痛の地獄
牛場 手術後の経過はどうだったのでしょうか?
村上 当日の夜、信じられないほどの大出血を起こしました。包帯が真っ赤に染まり、まさに血の海です。皮下にも血液が溜まって、陰茎と陰嚢が真っ青に腫れ上がりました。当時親元を離れて一人暮らしをしていまして、ベッドが血だまりになる中で、一人激痛に耐えていました。

村上 クリニックが委託している夜間のコールセンターにも電話しましたが、「氷で冷やしてください」という見当違いの指示しかされませんでした。今思えばすぐに救急車を呼んで総合病院に行くべきだったのですが、当時は「最初にかかった医師に任せるべきだ」と思い込んでいたんです。
牛場 翌朝はどのように対応されたのですか?
村上 父親が駆けつけてくれて、前日のクリニックへ再手術に向かいました。ズボンも穿けず、タオルを腰に巻いた屈辱的な姿で。クリニックに着くと、執刀した院長が僕の状態を見るなり「自分じゃ修正できないから、近くから医者を呼ぶ」と言い出したんです。
それで、外部から来た初老のベテラン医師が再手術をしてくれました。普通のクリニックなので全身麻酔はなく、局所麻酔だけ。陰嚢上皮や陰茎の中の血種を手で掻き出す手術を受けましたが、取り除くのに3~4時間かかり、まさに地獄の痛みでした。

村上 手術後、その初老の医師からは「今まで診てきた中で、こんな状態は数回しか経験がない。いつ治るかわからないから、とにかく養生して」と言われました。
奪われた快感と、精神を蝕んでいく後遺症
牛場 出血が止まった後、傷が治る過程はどうでしたか?
村上 術後は1ヶ月ほど自宅で休養しました。彼女には恥ずかしくて事情を話せず、「1ヶ月会えない」とだけ伝えました。1ヶ月経っても痛みは残っていましたが、傷口自体は塞がりました。

村上 それで、クリスマスイブに彼女の家に行き、初めての性行為に臨みました。思春期男子の例に漏れず「セックスってどんなに気持ち良いんだろう!」と期待を膨らませていたのですが、挿入しても快感が全く無く、とにかく亀頭周辺が痛かったんです。
牛場 原因は何だったのですか?
村上 原因は明確で、裏筋や包皮内板*¹などの性感帯まで大きく切除されたためです。また、勃起時の膨張率を計算せずに過剰に包皮を切除されたせいで、勃起するたびに皮膚が強く引っ張られ、痛みが生じていたんです。
*1 亀頭を覆う包皮のうち、亀頭に接している内側の粘膜部分
牛場 そのような状態になって、率直にどう思われましたか?
村上 絶望しました。今でも同じ気持ちです。人間の営みにおいてセックスはすごく大切なものじゃないですか。それが完全に損なわれてしまったので。

村上 また、それが原因で精神疾患も患いました。当時通っていた通信制高校でちょっとしたトラブルがあり、怒りでコンクリートの壁を殴って指を折ってしまったんです。診てくれた救急の医師に「骨がここまで潰れるまで殴るなんて尋常ではない。精神科を受診したほうが良い」と勧められました。
精神科を受診すると「統合失調症」と診断され(※数年後に別の大学病院の検査で「重度のうつ病」だったと判明)、投薬治療が始まりました。2年後に東京の大学へ進学したものの鬱と不眠に悩み、投薬治療をしても辛さは解消されず、結局1年で大学を中退して地元へ戻ることになりました。
繰り返される再建手術と、親からの無言のサポート
牛場 陰茎の治療はずっと続けられていたのですか?
村上 はい。手術から約2年後(19、20歳頃)、父親の勤め先の繋がりで、大阪の形成外科で有名な病院を受診しました。そこの形成外科部長に診てもらったところ、「これはひどい。何でこんなことになったんだ」と驚かれました。

村上 その病院で、足りない皮膚を補填するために、皮膚を移植する「植皮手術」を受けました。植皮って実は結構難しくて、移植した皮膚にしっかりと血管が新生しないといけないので、入院も約1ヶ月と長いのです。それで突っ張り感は改善しましたが、移植した皮膚は元の皮膚と違うため、触っても快感は得られません。
感度を取り戻したいと求め続け、その後も「陰嚢皮弁(陰嚢の皮膚を血管を繋げたまま移植する方法)」など、現在まで通算13回以上の修正手術を繰り返しましたが、未だに本来の快感には戻っていません。
牛場 想像を絶する苦しみですね。費用もかなりかかったのではないですか?
村上 そうですね。入院費や交通費なども含めると、総額で500万円ほどかかりました。
牛場 それはご自身で負担されたのですか?
村上 いえ、何も言わずに親が負担してくれました。

牛場 その辺りの背景には、最初に手術を受けた美容クリニックを紹介した、お父様の後ろめたさもあったのでしょうか?
村上 親父はプライドが高い人なので「すまなかった」といった直接的な謝罪はありませんでした。ただ、金銭的な負担だけでなく、僕が病院に行く際は必ず車を出してくれるなど、黙々とサポートは続けてくれました。やはり親として思うところはあったのだと思います。
1億2800万円を求めた医療裁判への挑戦

牛場 それだけ辛い思いをされて、訴訟を起こすことになった経緯を教えてください。
村上 再建手術を繰り返す中で、「自分の陰茎はもう元には戻らない」という現実を理解していくんです。それで、やはり原因を作った最初のクリニックに「責任をとってもらわなければいけない」と強く思うようになり、26歳の頃、大阪で弁護士事務所を数件回って、医療訴訟に強い弁護士に依頼することになりました。
牛場 請求金額はどれくらいで設定したのですか?
村上 1億2800万円です。これには、精神疾患による逸失利益(医療過誤に遭わなければ、将来にわたり得られたであろう利益)も含まれています。ただ、請求金額が高いと着手金も高くなる仕組みで、最初は500万円と言われました。
さすがにそれは難しかったため、成功報酬の割合を25%に上げることで契約しました。通常の成功報酬は12%〜15%程度なのでかなり割高ですが、それでも着手金として100万円はかかりました。

村上 また、医療裁判ではこちらの主張を医学的に裏付けてくれる「協力医」が必須なのですが、医師は他の医師と揉めたがらないため、この協力医を探すのが本当に大変だそうです。
僕の場合は、事故直後からずっと診てくれていた形成外科の先生が「村上君とは長年の付き合いだし、できる限り協力するよ」と言ってくれたのが救いでした。通常、意見書を1枚書いてもらうだけでも30万円程度かかるらしいのですが、そこも無料で引き受けてくださいました。
牛場 裁判には莫大なお金と労力がかかるのですね。
村上 はい。この「協力医探し」と「意見書の費用」が、多くの被害者が医療訴訟で躓くポイントです。
5年に及ぶ裁判の結末と2100万円の和解金

牛場 提訴後の裁判はどのように進んでいったのでしょうか?
村上 弁護士は法律のプロですが医学の専門家ではないので、医学的におかしい点について、まずは僕がドラフト(原案)を作ります。情報収集の為に、世界中の該当論文を読み漁り、京大医学部図書館に資料探しにも行きました。そのドラフトを弁護士が医師に確認しながら意見書にまとめる、という作業を繰り返しました。
それを裁判所に提出し、当然相手側から反論が来て、またこちらが再反論する。この書面の往復を1〜2ヶ月に1回のペースで続けていく感じです。裁判開始から決着がつくまで、結果的に5〜6年はかかりました。
牛場 その長い争いの末に、裁判はどのように決着したのですか?
村上 原告と被告の議論だけでは裁判官も判断が下せなかったようで、最終的に中立的な立場である第三者の医師に意見を求めることになりました。そこで、とある大学病院の形成外科の先生が僕の主張を「全肯定」してくださり、それが決定打となりました。

牛場 最終的に、いくらの賠償を勝ち取れたのですか?
村上 2000万円です。残念ながら、「包茎手術の失敗」と「精神疾患」の因果関係は認められなかったため、当初の請求額からは大幅に下がってしまいました。そこから弁護士への成功報酬や実費を差し引き、手元に残ったのは1300万円ほどです。
牛場 率直に、その結末や金額についてどう思われましたか?
村上 少ないですね。陰茎が元に戻るのなら、1300万円以上払ってでも戻したいと今でも思っていますから。
経験を活かし、美容医療の被害者を救う活動へ

牛場 今日お話いただいた壮絶な経験を、今後どのように活かしていきたいとお考えですか?
村上 僕は裁判と治療に、今までの人生の大半を費やしてしまいました。精神疾患で大学も卒業できず、就職活動もできませんでした。その代わりに僕の培った事は、この経験や知識です。それを活かして、治療してくださった医師の紹介で医療コンサルティング会社に勤務していたこともありました。
そのうえで、僕の今後の活動の方針は、包茎手術や美容医療で被害を受け、困っている人を救うことです。例えば、まともな医療機関(総合病院の形成外科など)へ繋げるサポートや、裁判で争うための証拠の残し方(手術直後に別の医師を受診するなど)、実体験に基づく具体的なアドバイスができると思います。
昨今、美容医療の被害は社会問題化しています。悪徳な美容クリニックから消費者を守る啓発活動を、僕にしかできない「説得力」をもって発信していきたいとも考えています。

牛場 確かに、包茎手術の医療過誤で最後まで裁判を戦い抜いたというお話は、なかなか表に出てきません。TENGAヘルスケアのYouTubeチャンネルでも、包茎手術に関する動画は反響が大きかったです。ぜひ今後も、情報発信や被害者救済の取り組みでご協力いただけると嬉しいです。
村上 はい、ぜひ協力させてください。現状、泣き寝入りしてしまっている人が多いと思いますが、適切な知識と手順を踏めば戦うことは可能です。そういった人たちを救い出せるシステムを、これから作っていけたらと思っています。
包茎手術被害者へのエール そして包茎手術・美容医療業界の健全化のために

牛場 包茎手術の被害については厚生労働省も警鐘を鳴らしています。そのような現状で、村上さんとして人々に伝えたいことはありますか?
村上 包茎手術や美容医療の被害の多くは匿名で語られますが、今回、私は実名と素顔でこの取材をお受けしました。今後このような活動を行う際も、すべて実名と素顔で臨む所存です。
その理由は、今まさに後遺症で苦しんでいる被害者の方々に、「苦しんでいるのはあなただけではない、一緒に闘おう」というエールを送りたいからです。そして、これから包茎手術や美容医療を検討している方々には、被害のリアルな実態を知っていただき、決断する前に一度冷静に立ち止まって考えてほしいという強い思いがあります。
被害者の方、そしてコンプレックスを一人で悩んで手術を検討されている方に、私が大切にしている言葉「あなたは一人じゃない」と強く伝えたいです。

牛場 なるほど。被害者や手術検討者ではなく、その土台にある包茎手術業界について、何か思うことはありますか?
村上 私は16歳の時の包茎手術によって、取り返しのつかない大きな被害を受けました。一度切り取られた組織は二度と元には戻りませんし、その後の再建治療も万能ではありません。しかし現状、その重篤なリスクが、手術を受ける患者側に100%正しく伝わっているとは到底思えません。本来であれば、それは包茎手術業界、ひいては美容医療業界全体が負うべき重い責任のはずです。
また、美容外科での失敗を公的な保険診療で補填する現状が、保険診療の現場や国の医療財政を圧迫しています。これは厚生労働省も問題視している重大な課題です。不適切な美容医療が「本来生まれないはずの患者」を生み出してしまっている現状、それを改善することは、そのしわ寄せを受けている納税者や真摯に臨床医療に取り組む医師のためにも不可欠だと考えています。実際、知り合いの臨床医からも「手術ミスによる後遺症の問題は業界として非常に苦慮しており、村上さんにぜひ頑張って変えてほしい」と背中を押されています。

この業界が患者にとって適切で安全な方向へと変わっていくよう、私自身も声を上げ、努力を続けていきます。しかし、現状を変えるためには、この記事を読んでくださっている皆さんを含め、社会全体の力が必要不可欠だと考えています。どうか、この問題に関心を持っていただければと切に願っています。
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