現役緊縛師が語る(前編) 深すぎる「緊縛」の世界
皆さんも「緊縛」なるワードを、一度や二度は耳にしたことがあるはず…。
「緊縛」とは「荒縄や綿ロープなどを用いて人体を縛る行為」のこと──海外でも「KINBAKU」の表記で、マニア間では共通認識されているといいます。
今回は、そんな「緊縛界」の歴史と現状……それと「緊縛」に魅せられた者たちのモチベーションやエクスタシズム……諸々について、緊縛師のHIBIKIさんに語っていただきました。
この記事の協力者
HIBIKI 緊縛師
年齢・出身非公開。緊縛歴は22年で縛った女性は数百人にも及ぶ、業界内では一目置かれるベテラン緊縛師。新宿二丁目で「Kスタジオ(緊縛スタジオ)」を経営。月2回ハプニングバーなどで、さらには毎週SMの女王様を対象に緊縛講習会を行なっている。自身の〝作品〟に私小説を添えたインターネットコンテンツ『HIBIKIの緊縛写真』も好評配信中。
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山田 ゴメス ライター&イラストレーター
年齢非公開のアラカン。大阪府生まれ。関西大学経済学部卒業後、大手画材屋勤務を経てフリーランスに。エロからファッション・学年誌・音楽&美術評論・人工衛星・AI、さらには漫画原作…まで、記名・無記名、紙・ネットを問わず、偏った幅広さを持ち味とするライター兼コラムニスト&イラストレーター。若者男性向け総合情報誌『Hot-Dog PRESS』(講談社)の「SEX・恋愛マニュアル記事」を休刊(2004年)までの約10年間担当し、その他にも多くのエロ・グラビア雑誌や書籍の創刊、制作に携わる。
この人の記事一覧日本に「緊縛師」は何人ほど実在するのか?
山田ゴメス(以下、ゴメス) HIBIKIさん、本日はお忙しいなか、お時間を割いていただきありがとうございます。「緊縛」は、我々にとって意外と謎な部分だらけの世界なので、今日はじっくりとお話が聞けることを楽しみにしておりました!
HIBIKI お手柔らかに(笑)。よろしくお願いします。

ゴメス さっそくではありますが……「緊縛」とは一体どういうことで、なにを〝目的〟とするのか──そこらへんの話からお伺いしたいのですが?
HIBIKI 「緊縛」とは、広義には「荒縄や綿ロープなどを用いて人体を縛る行為」のこと。
狭義──〝プレイ〟としての「緊縛」は「縛る側(=縛り手)が縛られる側(=受け手)を荒縄や綿ロープなどで束縛・拘束することによって、なんらかの快感を与えること」を、おもな〝目的〟としています。
その「緊縛」のテクニックに秀でた専門家のことを「緊縛師」と呼びまして……彼ら(彼女ら)が〝自身〟と〝受け手〟に、どういう類(たぐい)のエクスタシズムを求めているのかは、人それぞれといったところです。
ゴメス 現在「緊縛師」と呼ばれる人は、日本に何人ほど実在するのでしょう?
HIBIKI 専業ではない人も含むと、数百人くらいはいると思います。「自称」を入れると数千人かもしれない。基本的に緊縛師は資格が必要無いため、言うなれば「名乗った者勝ち」ですから。

ゴメス そのなかで「専業」──いわゆる「職業緊縛師」は何人ぐらい?
HIBIKI 緊縛師のメイン収入源は、基本的には「緊縛ショーの出演」になるわけですが、この手のショーはノーギャラであるケースがほとんど。出たとしてもせいぜいが1万円あたりで、この程度の金額だとモデル代や交通費や衣装代やBGM代……ほか諸々で、たいがいは赤字になってしまいます。
したがって、率直に申すと……「ショー」だけで食べていけている緊縛師はほぼ皆無でしょう。
ゴメス そこまで厳しいとは! それはもはや〝商売〟として成立していない!?
HIBIKI 現状は、サラリーマンなどの昼職で生活費を稼いでいる人が大半ですね。緊縛BAR*¹や緊縛スタジオ*²などを経営しながら、緊縛オンリーで生活できている緊縛師は20人いるかいないか──ショーはあくまで、自身が経営するBARやスタジオを宣伝する活動の一環にすぎません。
*1 緊縛BAR:緊縛用のステージがあって、そこで開催される「緊縛ショー」を、お酒を飲みながら見学…もしくは(〝受け手〟として)参加できるBARのこと。
*2 緊縛スタジオ:緊縛スタジオ=「緊縛」に特化した撮影スタジオ。縄やカラビナなどの備品があらかじめ用意されていたり、「吊り床」(=吊り緊縛に必要なスペースや梁のこと)が設置されているのが特徴。



ゴメス よくよく計算してみると、HIBIKIさんみたいに『緊縛写真』をインターネット上に発信するだけでも、けっこうな予算と労力を要しますよね?
HIBIKI はい。スタジオ代からモデルのギャラに、コスプレ衣装や縄代などの道具費……さらには、モデル探しや場所探しなど、途方も無い資金と時間が必要となります。つまるところ「緊縛」とは、誤解を恐れずに言ってしまえば贅沢な趣味でしかないのです。
ゴメス 「趣味」……なんですか?
HIBIKI 本来「緊縛」や「SM」とは、第三者に公開するものではなく、パートナー同士が二人っきりで快楽を追求するものだと、ぼくは思っています。
ただ、先述したように、(半)素人が安易に「緊縛師」を名乗れる時代になってしまったので、ここ数年は正統的な「緊縛」を正しく世に伝えるため、なるべく表に出るようにしているのです。
「緊縛」の歴史(古典緊縛と近代緊縛)
ゴメス 「緊縛」の歴史について、かいつまんで教えてください。
HIBIKI ルーツは応仁の乱から戦国時代にかけての、武士に重宝された「捕縄術」*³まで遡ります。
その「捕縄」の技術が、江戸時代からの「鎖国」によって、国内で〝鉄〟が流通しづらかったという環境下において、枷(かせ)の代わりに縄で拘束することで数々の工夫が重ねられ、各藩ごとに千差万別な緊縛術が受け継がれるようになったわけです。
*3 補縄術(ほじょうじゅつ/とりなわじゅつ):人を捕らえ、縄をもって縛る術のこと。「取縄(とりなわ)」「捕縛(ほばく)術」「螺繋(らけい)術」などとも呼ばれる。

ゴメス すなわち、「緊縛」は日本独特の文化だと???
HIBIKI そういうことです。しかし、「開国→明治維新」の流れによって、捕縄術としての「緊縛」は急激に衰退していって……。「廃藩置県」や「太平洋戦争」によって、過去の緊縛データもほとんど紛失し、さらには「手錠」という便利なアイテムの浸透によって、緊縛術を引き継ぐ人間も激減してしまいました。
ゴメス そのいったん衰退してしまった「緊縛」が、なぜ現在でも〝絶滅〟はしていないのですか?
HIBIKI 「様式美」としての「緊縛」が復活したのは、伊藤晴雨(1882年〜1961年)による「責め絵」からでしょう。
その後、サディズム・マゾヒズム・フェティシズムなどを専門に扱った読者投稿型雑誌『奇譚クラブ』(1947〜1975年)などによって、「緊縛」は一つの〝文化〟になりました。
ただ、当時、伊藤晴雨が描いていたのは、まだシンプルな「ぐるぐる巻きの古典緊縛」でしかなかった。それが1970年代あたりから、明智伝鬼さん(1940年〜2005年)を中心に「近代緊縛」が生まれ、団鬼六(1931年〜2011年)さんがピンク映画などで、それを一般的に浸透させていったのです。

ゴメス 「古典緊縛」と「近代緊縛」の違いとは?
HIBIKI これは、あくまでぼくの個人的見解なんですが──
「古典緊縛」=〝縛り手〟がやりたいことをやる。〝受け手〟がどんなに痛がろうと体を壊そうと関係なし。「拷問」に近く、いわば「俺はヤリたいことをやるから、お前はそれで勝手に興奮しろ!」という姿勢。
「近代緊縛」=あくまで「安全」が前提にあって、より耽美的傾向が強い。見方によれば、どっちが真のS側・M側なのかが立場的に曖昧だったりする。明智伝鬼さんなんかは、元々はM男で、ワガママ(?)なパートナーから「私を緊縛して!」と命令されて、その術を習得した(…と言われている)。

HIBIKI たとえば、江戸時代の「緊縛」は「早縄」(※人を捕らえたときに、手早く縄で拘束する術のこと)と「牢獄監禁用」(※動けば動くほど縄の締まりが強くなる術のこと)の二種類しかなく、原則としては一本縄で行われていました。
伊藤晴雨や『奇譚クラブ』の時代も、まだそういう「捕縄術」の延長的な技術が主流だった。
そこに、明智伝鬼さんが現れ、「なるべく安全に」という前提を徐々に意識し始め、ありとあらゆる緊縛術を改良していったのです。最近は、加虐的な思考が、より薄くなってきたため、(受け手が)キツそうだったらそれで「緊縛を中断する」という選択も多くなってきました。
「緊縛」にハマったきっかけはハプニングバーで…
ゴメス HIBIKIさんが「緊縛」に惹かれるようになったきっかけをお聞かせください。
HIBIKI 30代の頃、ハプニングバー遊びにハマっていた時期がありまして……。そこで、たまたま「緊縛師」(を名乗る人)と知り合って、サクラ客としてショーに呼ばれ……その人に「今日はヒマだからお前もやってみる?」と教わったのがきっかけでした。それがおもしろくて、一気にのめり込んでしまったわけです。
今と違って、昔のハプバーはいろんな性癖を持つ「変態」が集うスポットでしたから。
ゴメス なにが「おもしろかった」のでしょう?
HIBIKI 最初は「縛る」という行為自体に──ある程度の手順と修練を要する〝技術〟を勉強する──ちゃんとした習い事をしているという感覚に充実感をおぼえました。「女性」という〝対象物〟を「縄で縛る→拘束する=動けなくする」こと自体が楽しかった……。

HIBIKI ところが、だんだんと上手くなればなるほど、「緊縛」による女性(=受け手)の反応に興味が移り始め……自分流に「緊縛術」をアレンジすることによって、次第と「女性が縄で感じるプロセス」に魅力を感じるようになっていったのです。
ゴメス それが今では緊縛歴22年を誇る、業界の第一人者的存在に……。
HIBIKI いや、ぼくは「緊縛界」においては、むしろ異端児なのかもしれません。
ゴメス え! そうなんですか!?
HIBIKI 緊縛師にもさまざまなタイプがいるので、なんとも言えないのですが……近頃の(とくに若手の)緊縛師は、とにかく「ショー」在りきなので、「スタイル」や「NG事」へのこだわりが強い印象があります。
ショーの展開や見映えに重点を置いているため、「吊り」をメインとする緊縛師が大半。あと、M女を「痛い=気持ちいい」とマインドコントロールするほうへと向かっている緊縛師が多い。

だけど、ぼくの「緊縛」はマンツーマンの関係で、「いかに受け手に喜んでもらえるか」だけをゴールにしているので、相手が欲するモノは、なんでも積極的に取り入れたい。ですから、ぼく個人としては、便宜上的に自身の「緊縛」に「足枷」や「ボンテージ」を取り入れるのも、時には全然アリだと思っています。
「緊縛」は「脳イキ」のスイッチをつくるための道具?
ゴメス とは言っても…HIBIKIさんが「ゴール」にしている「いかに受け手に喜んでもらえているか」を見極めるのは、かなりむずかしいのでは?
HIBIKI 見極めのポイントは「脳イキ」*⁴ですね。ぼくは相手を「脳イキ」させるときは陰部も乳首も一切触りません。また、ショーでも(おそらくプライベートでも)緊縛のみで「脳イキ」させることができる緊縛師は、ほとんどいないでしょう。
*4 脳イキ:身体への刺激なしに、脳だけでオーガズムへと達する現象のこと。ただし、現時点で明確な科学的根拠は証明されておらず、「物理的な刺激による神経伝達」「ホルモンバランスや血流の変化」によって引き起こされるのではないか、と推測されている。
ゴメス ノ、ノウイキ??? 噂だけは耳にしたことがあるのですが……。
HIBIKI 一度縛ってみて「脳イキ」しちゃった子は確実に「緊縛」にハマりますし、「脳イキ」したあとのセックスは最高なので、どんなに高嶺の花な子でも絶対に離れていきません。

ゴメス どんな女性が「脳イキ」の資質を持っているのでしょう?
HIBIKI 妄想に浸りやすい女性、Mっ気の強い女性……など、いくつかの傾向はあるのですが……そういう性癖の持ち主はなんとなくオーラでわかるし、不思議とお互いを引き寄せ合うものなんです。
ただ、大前提としては「縛り手に対してある程度の好意をもっている女性」であることがマスト。あと「ナカイキ」できる女性も入りやすい。「イッたことがない女性」「クリイキしかしたことがない女性」は多少〝調教〟に時間がかかります。
「脳イキ」とは、「これがイッたという感覚だよ」と言い聞かせる一種の「洗脳=催眠術」みたいなもの。そして「緊縛」は、その「脳イキ」のスイッチをつくるための道具に過ぎない……というのが、ぼくの考えです。
ゴメス 「緊縛で脳イキのスイッチをつくる」? その具体例を挙げてみてください。
HIBIKI なかなか上手に説明はできないのですが(苦笑)──たとえば、縛っている最中に、一種の「トメ=トリガー」みたいなものを散りばめていく……そんな感じでしょうか。「吊り」をする際のカラビナの「カチャン!」という音だとか、縄を締めるときの「キュッ!」とした感触だとか……。
ちなみに、「大掛かりな緊縛=脳イキしやすい」というのは大間違い。実際、「脳イキ」は「吊り」よりも「グランド」(着面での緊縛)のほうがしやすいですから。

ゴメス これまでは〝受け手〟のエクスタシーを中心にお話を伺いましたが、対して〝縛り手〟のエクスタシズムは、どこにあるんですか?
HIBIKI 主流なのは「完成作の美しさ」に「自己満足」というエクスタシーをおぼえるケースでしょう。
でも、ぼくは受け手がイキまくって濡れまくっているさまを見てるのが一番楽しい。相手さえイキまくっていたら、最悪ぼくは別に射精できなくてもかまいません。根が「ご奉仕タイプ」なんでしょうね、たぶん(笑)。だから、ぼくは「異端児」なんです。
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